リノベーション事例(I邸 住宅→●●+住宅)

家を持ちたい人へ

私が設計・監理をした実例を元にリノベーションの設計方法について紹介します。

リノベーションの背景と目的

「過疎の進行する町で空き家をどうするのか?」これは日本中に見られる課題である 。改修して賃貸に しても住み手が付くかわからない。改修費用が回収できる見込みもない。固定資産税等の問題から更地 も難しい。空き家問題を「住むこと」で解決しようとするのは難しいようである 。では住む以外の使い 道で運用してみてはどうか?現代ではインターネット化によって場所に関わらず仕事が可能になってい る。リモートワークが可能な人々がレンタルオフィスに使うということはありうるだろう 。特に最近で は新型コロナウイルスの蔓延によって都市部に集まることの意味は薄れている 。リモートワークをする 動機も大きくなっている 。幸いにも本物件では「社員食堂」という向こう数年は有効な利用方法が現れ 、改修の機会を得た。床面積が大きいことからそれ以外にも様々な利用方法が考えられ 、多様な用途に 対応できるようにしておくことが求められた 。こうした背景から「 長く使える状態にしておく 」ことが 今回の工事の目的となった 。

既存建物について

1976年竣工。木造2階建て、入母屋屋根。床面積は1234.79m²270.48m²、計305.27m²。当該地 の隣の林業が盛んな村の大工による建築で工期は2年近くであったと聞く 。農家を基本とした間取りで 農家において土間にあたる部分に台所、居間、水回り、応接間が当てられている。築40年ほどで古民家 とは言えないが、現在では使われない貫や楔を用いた柱梁の接合が見らる 、独自の柱間で建設されてい るなど、この地に古くから伝わる建設技術 、寸法感覚を残している。玄関や居間の天井には現在では入 手困難な「縮杢(ちぢれもく)」などと呼ばれる美しい木目の大判の杉板が使われており新築では再現 できない雰囲気を醸している。雨漏り、白アリ被害は少なく建物はまだ健全である。 設計者の祖父母の家であり2018年に空き家になったことから 、活用方法として自営業の会社の食堂 、カ フェ、近隣の仲間を集めて趣味の活動をする場所 、町のイベント時のゲストハウス、シェアオフィス、 私営図書館 、物販店などが想定された 。様々な活動に対応できる場所として 、20196月から調査 、設 計が始まり9月から工事着工 、20204月に竣工した 。

立地について

岐阜県揖斐郡揖斐川町に位置する。揖斐川町の人口は2.132万人(2018年)で過疎化が進行している。 マラソン大会や音楽フェスが行われるなど町おこしの機運も見られる 。ゴルフ、パラグライダー、スキ ー、川遊びが可能で週末のレジャーに名古屋 、京都など都市からの来訪者も少なくない 。町域の91.1% が山林で中心地は揖斐川の扇状地に当たる平地に位置する 。中心部は夏には日本一の暑さを記録し 、冬 には数回積雪が30cm以上となる寒暖差の大きい地域である 。敷地は中心部に近く、山地と平地の境に 位置している。敷地付近には徳山ダム建設時の移転先として建てられた住宅地が広がっており 、敷地は 小さい山を切り開いて住宅地として整備された土地に位置する 。

建築的手法

1.多様な活動の受け皿に

使うことは「人の目に触れることになり、出会いを生み、利活用の機会を増やす」、「建物の異変に気 づくことができる」「通風が促され建物が健全に保たれる」という長く使うきっかけをうむ 。多くの利 用の機会を得るために可能な限り広く場所を確保する平面計画とする。

2.魅力的に

場所だけがあっても、その場が魅力的でなければ使う動機付けがない。魅力の一つとして居心地の良さ は欠かせない。居心地には様々な要因があり一言で語れるものではないが、本件では居心地を通風、採 光、広さ、質感、景色の面から向上させ「思わず長居してしまう場所」を目指した 。また、改修には新 築のような自由自在さは無いものの既存部分のもつ経年変化や 、現在では入手困難な材を活かすこと 、 新旧の組み合わせ方などにより ここだけの空間体験を作ることが可能である 。ここだけという感覚も魅 力の一つであり、人々にその存在を印象付け、その場を大切にする動機を与えるものだと考える 。

3.健全に

長く使うには当然、性能の維持が不可欠である。改修であるため可能な限りにはなるが耐震化、通気性 の向上、断熱性の向上、水回りの更新を図った。

建築的操作

1.広く場所を確保

既存の間仕切りを取り払い2室を1室にすることで広さを確保し多様な利用方法が可能な 間取りとした。南北に広いスペースを配置してそれぞれに外部からの入り口を設けることで 場所貸し等の際に利用者、利用内容が異なる状況にも対応できるようにする。メインの利用 方法が食堂であるためアプローチの良い南側を食堂とした。北側は利用法が未定のため下地 までの工事とすることで工事費を削減し、将来の対応が柔軟にできるようにする。

2.居心地の向上

食堂において2階の床を取り払うことで空調の効きを考慮しつつ気積を大きする。窓を大きくし、通風、採光、眺めを向上させる。既存の土壁を尊重し新旧が見てとれつつも調和のとれた仕上げ材を採用する。窓からの光がぼんやりと部屋全体に広がるよう開口を壁・天井に沿うようにし内装を目が粗い白系の珪藻土塗りとする。

3.「ここだけ」の創出

解体部の縮杢天井板を建具、家具に転用。建物の歴史を伝えるものとして小屋組を一部表 しにする。妻壁を窓に変更し表した小屋組を自然光で照らす。昔の技術を伝えるものとして 既存の壁仕上げを剥がし下地の土壁を表しにする。土壁を照らす照明配置とし凹凸、質感を 際立たせる。昔からの間取りを伝えるものとして玄関・座敷部分を保存する。自営業の会社 (金属加工業)で製作した取っ手、引き手金物を使用する。

4.水回りの更新

段差をなくし、広くすることでバリアフリー化。器具・配管を更新し臭気の問題を解消。浄化槽から下水接続に変更。

5.耐震化

既存の意匠を大きく変えてしまう位置、使い勝手に支障が出る位置は避けて耐震壁を追加 する、既存の壁を耐震壁化する。工事費削減のため工事範囲が広がる位置は避ける。屋根の 瓦・土を下ろし板金で葺き替えることで建物を軽量化。

6.通気性向上

高い位置に開口を設け重力換気を促す。

7.断熱性向上

断熱材の追加。工事費削減のため断熱範囲を最小限にする。

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