監督:ジャン=マルク・ヴァレ 2015年9月公開
妻を亡くしても全く悲しくない男が「解体」によって感情を取り戻していく。
原題は”demolition”「解体」、こちらの方が内容に合っていると思う。
事故で妻を失った主人公デイヴィス。彼は事故後、それまで気にもとめなかった些細なことに気がつき始める。妻を亡くしても全く悲しくないことに気がついた彼は義父の助言「何かを直す時はまず分解しろ。そして見極める。強さの源を。」に従い気になるものを片っ端から解体していく。デイヴィスはそれまでとは別人になっていく。
子どもに戻ることが人を「解体」すること
テーマは「子ども」と思われる。
妻を亡くしてからの主人公の行動は終始子どもっぽい。
子どもモチーフ
・空港を歩く人の荷物の中身を見たい
・空港の警備の軍人を見て国を守ってみたくなる
・衝動的に電車の緊急停車レバーを引く
・仕組みが知りたくてなんでも解体する
・メリーゴーラウンド
・海にかけていって肩車して遊ぶ
・ソファーで秘密基地ごっこ
・影遊び
・子供の頃誰よりも早く走りたかった
・銃を撃ってみたい
・銃で撃たれてみる
・ロックに夢中になる
・音楽を聴いてまち中で踊り回る
・子どもに混じってかけっこ
映画が提示する図式
子どもの感性を持った「子どもモード」の人と会社を回すための機械のようになった「大人モード」の人が出てくる。
子どもモードの人たちは感性豊かで幸せそう。大人モードの人たちは感性が貧しく
表情も硬い。この対比が描かれる。
子どもモードの人たち
事故後のデイヴィス
デイヴィスは好奇心と衝動の赴くままに「解体」する。そうして子どもになっていく。会社ではどんどん変人化していく。
衝動的に書いた手紙によって関係ができたカレン、カレンの息子クリスとも子どもの感覚で親しくなっていくように見える。
子どもになることで、何事にも無関心だった状態から脱し、感情が回復していく。違和感にも敏感になる。
妻のメモを見たことで妻との思い出が蘇る。楽しい時間、お互いが子どものようになってふざけあう時間があったこと思い出す。
カレン(自販機会社の窓口担当)
子どものようなデイヴィスと一緒に子どもに戻れる存在。
自分に正直に生きたいと思っており、正直なデイヴィスに興味を持つ。
何も変わらなくていいと息子に告げる。
クリス(カレンの息子)
15歳 見た目は12歳 行動は21歳
デイヴィスの遊び相手。一緒にロックを聴き、解体をする。
デイヴィスを信頼しているようで自分はゲイであるかもしれないと相談する。
ジェシカ(デイヴィスの妻)
貝やタツノオトシゴ柄のタオルがすき
特別支援学級の先生
911の映像を見るたびに泣いた
映画内で人物像があまり描かれない。冗談めいたメモを残すことから子どもっぽさのある人だったと思われる。
大人モードの人たち
事故前のデイヴィス
何事にも無関心。冷蔵庫の水漏れに2週間気がつかない。妻からのメモにも気がつかない。プレゼントにもらったもののことも覚えていない。通勤電車での会話がめんどくさい時は嘘をつく。面白くなくても仕事だから淡々とやる。
フィル(デイヴィスの義父、デイヴィスの上司、投資銀行の経営者)
子どもモードに入ったデイヴィスを以前のように戻すことがデイヴィスを助ける事だと思っている。
ジェシカの遺産の使い道として彼女の名前の奨学金を創設することに賛同しないデイヴィスを「お前がおかしいんだ」と黙らせるが、義父が選んだ奨学金授与者は全く立派な人物ではなかった。義父の感覚は完全におかしくなっているが気がついていない。
トッド(奨学金授与者の一人)
面接で「競争に勝ったこと」をアピールしている。
奨学金の授賞式でカレンに無礼な態度をとる。
マイマイガは何の比喩か?
デイヴィスはなぜ感情を失ったのか?彼が感情を失った背景は描かれないが、マイマイガが心臓を食べたから感情がない。という夢を見る。これがヒントであろう。庭木を手入れしていた実父がマイマイガは木を枯らすから駆除を頼めとデイヴィスに伝える。マイマイガはどこからともなくやってきて拡大し気付かぬうちにデイヴィスの感情を蝕んでしまったという事だろう。
マイマイガは嘘つきながら乗る通勤電車、勝つことが目的の味気のない仕事、のことかもしれない。感情を殺して繰り返しているうちに何も感じなくなってしまったのではないか?
学び
・身の回りに無関心になっていないだろうか?感情は鈍っていないか?マイマイガに心臓を食べられいないか?と問いただしてくれる映画だった。
・好奇心の赴くまま子どものようにしたい事をすることで感情は回復していく。
・子どもモードの時しか人とは真に仲良くなれない。
子どもとメーリーゴーラウンドに乗り子どもモードに入った義父は笑顔だ。
仕事に疲れて最近笑っていないなという方にオススメの一作。